最新情報

INFORMATION

長谷山博之のシネコンサートが待ち遠しい! 《 交響曲第8番へ長調作品93 》
2021.02.03
交響曲第8番は「ベトシチ」と同じ年に生まれた。「ベトシチ」が人気であったのに対し、この交響曲の人気が今ひとつだったことに不満だったようである。確かに他の曲と一線を画す創意と工夫がある。ベートーヴェンマニアにとってはたまらない作品である。ちなみに我が街のオーケストラ仙台フィルでも小泉和裕指揮でこの交響曲のCDが発売されている。ちなみに同録ではベルリオーズのイタリアのハロルド。ヴィオラの独奏にはベルリンフィルハーモニー管弦楽団の首席ヴィオラ奏者の清水直子である。…お勧めである。
 ベートーヴェンは20代後半から悩まされていた持病もあり〝苦悩〟と共に過ごした作曲家であったと言っても過言ではない。しかしその〝苦悩〟を感じさせることの無い作風は前にも書いたが「優れた人間の大きな特徴は不幸で苦しいことに耐える事である」の言葉通りであった。この曲に取り組んでいた時期、ベートーヴェンは実らぬことを望むべくもない「不滅の恋人」に思いを寄せていた時期である。それが創作意欲に寄与したことは容易に想像がつく。珍しくこの交響曲は誰にも献呈されずに自らのものとしていたようだ。この作品に込める思いも特別であった証だと思うのは三面記事並みの推測である。(笑)

photo(c)Unitel

第1楽章は華麗な弦楽器で始まる。これまでの交響曲とは若干趣が変わって極めて保守的でありながらベートーヴェンらしさをしっかりと前面に出している。これまでの流れを作るような指揮とは変わって、細かな処まで的確に指示を出しているのは、作品の中に様々な工夫がなされ、バーンスタインならではの絶妙なバランスに繋がっている。この楽章の終わりの部分は何気なさの中に次の楽章への期待を膨らませる。
第2楽章は可愛らしく始まりユーモラスな部分を垣間見せる。この時期メトロノームを考案したメルツェルと仲良かった事もあり、ヴァイオリンの正確に刻むようなリズムはその影響を受けたとも言われたがメトロノームが特許をとったのはこの曲の完成後であったので真偽の沙汰は定かではないがメルツェルがメトロノームの話をしたか、試作品を見せたであろうことは容易に想像がつく。もう既に耳の病気は改善の兆しは見せてなかったので自分の譜面に速度表示は示したかったであろう。音楽の作りは至ってシンプルであるがシンプル故にそれに表情をつけていくのはバーンスタインならではのセンスの見せ処であろう。
第3楽章は民族舞曲を表すメヌエット。民族舞曲の色合いも充分に残しながら上品に仕上げている舞曲である。くどい様だが実る事など望むべくもない〝不滅の恋人〟への想いで穏やかな気分になっていたからこそ生まれた楽章だと思ってしまうのは私だけなのだろうか…恐ろしいことに作曲していた時期に〝不滅の恋人〟宛に書かれた恋文はしっかりと残っている。手紙の末尾の〝あなたの忠実な…〟このセリフはモーツァルトも確か使ったはず。いずれにせよ短いとはいえ40過ぎたベートーヴェンの愛らしさ可愛らしさ溢れる楽章である。
第4楽章はベートーヴェンが凝りに凝った楽章であることが随所に現れる。それにしても強弱入り乱れるコントロールは見事である。ハイドンの交響曲「驚愕」を思い起こさせるかのようなサプライズ感さえ沸いてくる、ベートーヴェンならではのユーモアなのかもしれない。ご機嫌麗しき巨匠の作品である。弱奏から強奏に移る瞬間のバーンスタインは大画面で見るスクリーンならではだろう。これでもかと云うばかりクライマックスである。

長谷山博之 ☞
 
公益財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団事務局勤務。
「仙台発 大人の情報誌 りらく」連載「音楽(ねらく)物語」(現在休載中)で健筆を振るうなど
クラシック音楽の伝道師としても活動。
美酒と美食と音楽そしてこの世のすべてのものを愛する、まるでバーンスタインみたいな博愛主義者。(笑)